November 2013
紙面によって人と人を正しく繋げたい。
いろんな人のエネルギーとドラマを共有させてもらって自分のエネルギーにできる。とても”得”な仕事ですし、非常にありがたいなと思っています。
株式会社 国際開発ジャーナル社
編集部 玉懸 光枝 様
・団体説明
株式会社国際開発ジャーナル社は、国際協調、途上国の貧困救済援助、途上国の国造り、人造り援助などの考え方を普及する、という特別な目的のために発刊した雑誌「国際開発ジャーナル」を経営すべく設立されました。「国際開発ジャーナル」のほか、世界を目指す仕事と学びの情報誌「国際協力ガイド」なども出版しています。

This month's
interview


みんなの“知りたい”
を叶えたい。


・国際協力というものを紙面で発信する意義については、先ほどのお話の中にあった「情報を正しく伝える」というところにあるのでしょうか。
先ほどお話したような賛否が分かれるテーマがあった時、意見が対立している人たち同士は、直接議論せずお互いに批判し合っているだけの場合があります。だからこそ、記事を通じてお互いに理解してもらいたいし、こういうことが行われ、こういう議論があるんだな、ということを広く知ってもらいたい。いいことやっているから別に知られなくていいということは決してないと思うんですね。広く知ってもらった上で、支持を得たり、あるいは、批判されるべきは批判され、方向を修正するために、情報の共有は不可欠です。そういう意味で、紙面によって人と人を正しく繋げたいと思っています。
・紙面をどういう方に見てほしいと思っていますか。
『国際開発ジャーナル』は、専門誌なので、残念ながら広く一般の書店で売られていて気軽に立ち読みされるというものではないのですが、国際協力なり、途上国なり、世界にいろんな形で関わっている人たちに向けて発信していけたらいいなと思っています。
今までは、どちらかというと、従来の国際協力やODA関係者向けの情報が多かったんですが、最近は、ビジネスを通じて開発途上国や新興国に向き合う人たちも増えてきましたから、読者層も、もっと広げていかなくては、と感じています。こうした民間企業の方々や、これから国際協力に携わりたいと思っている若い人たちにも読んでいただけるような情報を積極的に出していくことで、そういった人たちをどんどん育て、つなげていけるような記事を作っていかなければならないと思っています。
・インタビューを通していろんな方に出会う中で、取材の前と後でどういう変化がありますか。
いろんな人に取材させていただく機会がありますが、いつも私はその方からエネルギーをいただきます。
どんな形であれ、インタビューを通じてそれぞれの方の人生や思いに触れるわけじゃないですか。その人の生き方を変えた出来事を私もシェアしてもらい、その人の今を形作った衝撃の一部を私も経験させてもらい、その思考の過程を辿らせていただく、という側面がある。
どんな取材でどんな人にお会いしても、何らかの形でその人の人生に触れさせてもらえるからこそ、人に会うのがすごく好きですね。いうか、それも好奇心かもしれないですね。
いろんな人のエネルギーとドラマを共有させてもらって自分のエネルギーにできる。とても”得”な仕事ですし、非常にありがたいなと思っています。
・いろいろな方のお話を聞く中で、その人の考えや思いを引き出すための工夫や心がけはされていますか。
当然のことですが、その人のことを事前に調べていきます。この人は、どういうキャリアを経て今の立場に就いているのか、とか、その人が主張していることがあったら、なぜそのように考えるんだろう、ということを、会う前に自分である程度想像してみる。その上で、実際にお会いしたら、一緒になって気持ちを共有しながら聞く。その人のストーリーにあえて入り込んでみることで、予想していなかったエピソードやコメントが聞けたりすることもあります。
さまざまな方にお会いする機会がありますが、どの方のお話もとても興味深いし、わくわくします。もちろん記者として書きたいっていう意欲も大事だと思いますが、やっぱり知りたいし、それを伝えて発信したいんですよね。
・最後に、学生に向けてメッセージをお願いします。
玉懸さん:悩むことって少し回り道に思えるかもしれないんですけど、後から考えると全部繋がってるんですよね。嫌な経験もよかった経験も、全てあるから今がある。無駄な回り道というものはないと思います。大いに悩んで、自分を信じて進み続けてほしいですね。
溝端さん:自分が本当にやりたいことをとことん突き詰めていってほしいなと思うんですよ。社会人になると本当に時間が無くなるので、自分を知るためにも、自分のやりたいことに優先順位を付けて、突き詰めてほしいですね。回り道は決して悪い経験ではないですよ。
高橋さん:一本、軸を持ちつつ、そこから興味があることを広げていってほしいですね。一つの経験をステップにして、そこからやりたいことをやるってこともできますよ。
功刀さん:やはり社会人は本当に時間がなくなるので、ゆっくり考える時間すらなくなってしまいがちです。今のうちに、思いっきり時間を使ってやりたいことをやってほしいですね。
・実務を経て『国際開発ジャーナル』という紙面による国際協力に移られたそうですが、その経緯は?
(大学院を休学中に)カンボジアに行き、大使館とJICA事務所で実際に援助案件をいろいろ見させていただいたのですが、特に、インフラ分野の案件に深くかかわらせていただきました。大学院のゼミでは、少数派の権利と多数派の権利、どうすれば両立できるのかといった議論をしたりしていましたが、そうした議論が実社会でどういう過程で進められていくのか、カンボジアで思いがけず目の当たりにすることになりました。
具体的には、橋や道路の建設や改修に伴って発生する住民移転に対する対応を担当しました。カンボジア国内の一本の道路が整備されることで、カンボジアだけではなく、その道路が国際道路として近隣諸国をつなぐことで、周辺国も含めた地域全体の物流が活性化して経済効果が生まれる、という国レベルの大きな話がある一方で、沿道に住んでいる住民が、工事に伴い移転することになると、彼らは生活スタイルも暮らしも変えなければいけない。そういう、国や地域としての利益と、地元の人たちの利益・権利をどう守るか、どう両立すればいいのかということを日々考えながら、「あぁ、昔、大学院で議論した話だな、実社会ではこういう形で起こるんだな」と思いました。
当時、私はその事業を実施・推進する立場にいましたが、特に環境系のNGOなどが反対していたため、さまざまなメディアにいろいろな記事が出ました。「こんなひどいプロジェクトが進んでいて、移転する住民が泣いています」と現地の新聞に出たことが日本に伝えられて、日本の国会で審議が止まってしまったりすることもありました。
でも、そうした騒動の発端になった記事は、たいていの場合、残念ながら正確なものではありませんでした。移転を強要されて泣いている、と写真入りで出た人が、移転する住民ではなかったり、事実関係が間違っていることもしばしばあったんです。
「情報って、たとえいい加減であっても、いったん出てしまったら、もう取り返しがつかないんだな、それほど、メディアって影響力が大きいんだな」と痛感しました。起きていることを正確にとらえ、正しく情報を発信しないと、いくら現場でさまざまな人が頑張って奔走していても、いとも簡単に振り回されてしまうなら、意味がないんじゃないか・・・と、もどかしかったですね。
そんなタイミングで、今の会社の求人をインターネットで見つけたんです。「ここに入れば、このもどかしさを解消できるかもしれない」「自分が現場で見てきたことを発信したい」。そう、ピーンと思って、カンボジアから応募しました。


(左から)溝端様、功刀様、玉懸様、高橋様